『バービー』『リボルバー・リリー』

グレタさんのことが嫌でも頭をよぎる暑さの中、グレタ・ガーウィグ『バービー』を見る。
漠然と『若草物語』でスピルバーグっぽい長回しでカメラ動かしていた気がするが、今回は『レディバード』の時のカットバックメインでやってて、そっちの方がやっぱり良いと思った(名前も出ないさりげない通りすがりにやたら印象に残る人物を用意している感じとか)。母さんの車の送り迎えで大事なことが起きるというのも通じているか。
最初20分くらいでテーマ語りきったんじゃと危うんだが、ここからが本領発揮という転がし方で、ぶっちゃけラストどうすんだと思っていたら、そう来たかの連続であった。
ツイン・ピークス』3シーズンラストとか『シン・エヴァ』じゃないかと(ちょっと最後のロスの俯瞰の入れ方似てるし、ウェスと一緒に見たか?)よぎったが、ある意味で『サウスパーク』の世界に近い終わり方で、かなりグッときた(最低の言い方をするなら、世界の裂け目が閉じて割れ目ができたみたいな)。まあ、たとえに出すのが男の映画で申し訳なくなるくらい、印象も逆ではある(見終わって友人の感想を聞いて下ネタみたいに言う自分を反省するしかないくらい大事な話で、それが普通ということだった)。ちょっとマリックのパロディというか『アフター・サン』もよぎったが。『君たちはどう生きるか』と繫がりもあるが、ンなこと人から言わせんよという映画でもある。
コレに素直に感動したとか言ったらgojoさん怒るというくらい、身につまされる内容もあって、いろいろ情けない自分が嫌になる。
それにしても肩書「ビーチにいる人」はいいね!(『ビーチ・バム』ならぬビーチ・ケン?) 僕も「映画館にいる人」と名乗れるくらいになりたい(そう名乗ってる年長の知人はいます)。
あとあの内容で一曲目がレクイエムというのも洒落てる(タイトル見るまで名前に気づかなかったくらいぼんやり生きてきましたが)。いろんな音楽かかるが、割と何の曲も流れない場面の存在が印象に残る(母さんのアジとか)。
あとはジャームッシュのゾンビ物以来久々にシネコンで見る新作映画でメタ的なナレーション聞いたかも。
スタッフにやっぱり感染対策いるんだとピンクのクレジットだから気づけたかも。
tohoシネマズ新宿の客層も予想外にインターナショナルで、その笑い方やウケ方までセットで(ただ自分の周りも国際色豊かだったが静かに見ていたから、いろいろある)、この客席とカットバックし続けるような映画に相応しい。『フィフィ・マルタンガル』やギトリ氏の映画と同時期にかかるというのもナイスタイミングかも。Fワードのシーン(口元にピンクの丸が入るのもいいね!)でウケてたり、スペイン語の話(字幕ないから何言ってるかわからず)でもなかなかウケてた。『キングダム』見れてないが、アメリカではスウェーデンムーミン国くらいの適当なファンタジーだろうと伝わるのも笑った(日本もそうか)。
廣瀬純氏が『Jエドガー』で言っていた「自分探しではなく、自分は自分だという映画」でもあり、(さすがに読み直して間違っていると思ったので削除)それをライアン・ゴズリングがやるほど、説得力ありつつ、それがまた男らしい憐憫にもとれるというラインが維持されてて、全ての女性よSHINE!なウィル・フェレルも別に反省しないし、その辺の映画が終わっても実は現実は何も変わってないんだというのが伝わるからこそ、満遍なくウケるような、刺さるような、単にヒットしたような、とにかく奇妙だが、あるものはあるのだというブレなさがある。まあ、要はケンはこれからだってことか。アランの扱いは最終的にどうとるかは確かに何とも言えず。
風ならぬ水のない世界で(なんか『トゥルーマンショー』のラストもよぎったが)、紅茶のカップが絶対に空なのは、やはり狙って、そうはいっても映画ならカップは空なんだよといつメッセージなのか。
誰だかわからなかったがヘンテコというか壊れたバービーはグレタ本人かと思ったら『ゴーストバスターズ』の人だったのも終わってから知った。なんで再登場から顔の落書き消えたのかは、世界の変わった影響?
あの娘のバービー世界に行ってからのピンクの着こなしていく過程は、オシャレと無縁な自分でもさすがにうまいと思った。
いろいろ言われてるようだが、いやあ、見れてよかった。

 

本当はケイズシネマで『少年』見るつもりがぼんやりしていて満席で逃してしまった。
それと関係あるのかどうかともかく何気に初めて行定勲の映画をスクリーンで見た。『リボルバー・リリー』。『バービー』とどっちも男はキスを期待したけど違ったシーンとか、あと最初の会社ロゴにこだわりを感じるところあったりとか通じる。リボルバービーってやつ? 恥ずかしいか。
見る前から「これが黒沢清阪本順治石井隆の映画だったら良いんだけどな」と失礼な予想をして、結局そういう映画ではあるけれど、でも思ったよりは面白い。
綾瀬はるかは銃を手にした時よりステゴロでいく時の方がカッコいいけど(あとトラックの運転とか)、その意味では黒沢清前田敦子や『散歩する侵略者』の女子高生宇宙人とか、まあ、逆張りで全然好きじゃないと言っている『べいびーワルキューレ』のコンビの方が殴り合っている感じがあるんだから残念だが、それでもロボット的に(まあ訓練受けたとか説明はされるが)理由不明に強いというのに感動した。
139分もあるし、実際長くは感じるけど、でも女殺し屋物というところから何とか外さずにとどめただけで及第点かもしれない(なんと偉そうな書き方)。とはいえ、あの不必要な「峰打ち」みたいなのだけはやめてほしい。あと言うまでもなく『グロリア』のいただきなんだか、そう考えると少年の存在だけでもカサヴェテスに敵うわけがないのだが。余計な説明しょっちゅう言わされる少年が可哀想である。
不満ばかりだが銃を手にした点では相棒的なシシドカフカのほうが最高だ。なんやかんや何度目かの共演っぽい長谷川博己は絶対に途中で死ぬと思っていたけど、飄々とほぼ無傷で最後まで生き延びるのも何だかいい。阿部サダヲとか板尾創路とか佐藤二朗とかキャスティング安っぽい気がしたけれど、この薄っぺらさは逆にいいかもしれないような、まあ、単純に弱いか。なんか悪役の声が端役からボス格まで聞いてて魅力なくわめいているだけに聞こえるというか、要するに魅力的な悪役が一人もいないのも残念ではある。
ともかく絶対に致命傷としか思えない中で背中に血の翼が生えた綾瀬はるかが「私は生きることに決めたから」と言っているからには生き残るんだろうという妙な説得力があって、そこも感動した。
しかし鈴木亮平ってなんか嫌いだなとも思った。