『トルテュ島の遭難者たち』『大輪廻』『キングダム エクソダス』

ジャック・ロジエ特集にて『トルテュ島の遭難者たち』を見る。
ロジエのギトリ氏へのリスペクトについては詳しくないが(いかにギトリ氏が映画の冒険者の先駆けの一人か)『あなたの目になりたい』の灯火管制の夜のシーンが『悪魔のいけにえ』化したような凄さというか、ほぼジャック・ヴィルレの手にしたランタン以外何も見えない暗さの中を歩くから、もう誰かの目になれるかどうかの問題じゃない。ようやく船に乗って島へ出発したあたりで、これまたジャック・ヴィルレが元海兵だった話なんかするけれど、もう乗り合わせた黒と白の山羊を抱えたりするのを見ながら、ここからは目を開けていても閉じていても何も物語を追うのに困りませんよ、と突き放されそうな感覚に襲われる。つまりは逆にもうどこまでも気が抜けないというか。島に漂着してどうする?という映画はいくらでもあるだろうが、「島に漂着(したふりを)するかどうか」で延々揉めるという映画は初めてかもしれない。一方で何の因果か広報アシスタント化した女性のモノローグが字幕とともに入ってきて、でもそれを頼りに映画を楽しむというよりも、より深みに潜っていくような、むしろ入りきれないような、なんとも曖昧なラインをさらに突き進む(いったいどの時点から振り返ってるのかという、これまた無人島漂流物らしいつぶやき)。あのボナヴァンチュール氏の飛び込むところで島の側へ舞台を移して遠方から見ることになるのが凄い。空港でのハンドサインのイラつかせる伝達できなさ、自分が看板持ってないから集合できなかったというオチ、そして次のカットではもうほとんど人が集まってる、長引かせながらシナリオを破り捨て続けるような具合。でもこれを見ると、映画館で見るならこれくらい自分の時間がどうなってしまうのかわからなくなるものでないと物足りなくなる。なので次はトリアー『キングダム』とかどうなってるかわからない映画を見ようかと悩むも間に合わず。

ケイズシネマにて『大輪廻』。一話目のキン・フーに全力を使って、二話目(凡作)三話目(ヘンテコ儀式にズッコケると後半のモノホンが痛すぎて目が覚める)と気が抜けたままボンヤリ見る消火試合みたいな感覚になるオムニバス。
キン・フー編はいかに一つ一つ何もかも丁寧・端正・厳格だがしかし早くて過剰で追いきれないかの凄さが詰まってて、特に序盤の読書の合間を襲撃されたが撃退して、また書を開き、と元に戻るまでを汗一つかかずに終えたかのような具合に超人的。これを3回このまま上映してくれればいいかなというくらい。

 

休みの前の晩に飲んで夜更かしして、しかし早く目が覚めてしまうというのを繰り返し疲れが抜けない。
苦手意識から後回しにしがちのトリアーに挑戦しようという気が理由はわからないままムクムクと湧き上がり、ようやく『キングダム エクソダス』に。
実はシーズン1、2も見てないままだが。過去作の劇場公開を喜ぶべきかもだが、すっかり「その前に配信か再ソフト化をして自宅で予習させてほしい」という気分。
清々しいほどタルい話と、清々しいほどのバッドエンド。ただ悪魔の呪いかクーラーの利きすぎで腹を痛くし、次の予定に間に合わなくなる。こんな悪魔の話が霞むくらいスウェーデンデンマークの話とは知らなかった。街に出てからすれ違う奇人変人が悪魔の手先に見えてくるなど。まあ、監督本人は出なくていいような、そうしないとオチがつかないか。
これに乗れたらシーズン丸ごと映画館で見ようかとも思ったが、そこまでの意欲は湧かず……というかむしろ力を奪われた。
この調子でベロッキオの『夜のロケーション』も公開してほしいな。