第62話「許されざる愛」中川信夫は二つの話、二つの出来事を一本の中で捌いてみせる……それはテレビドラマ45分の世界なら当然のお約束事なんだろうが。
第63話「父と子の詩」はカットバックが多い回。カットバックだけじゃなく、コントが挟まれたりもするが、ナイフ投げの的になる少女は(不気味は言い過ぎだが)『地獄』の三ツ矢歌子に通じるものがある。特に初めて江波杏子の的になるシーンでの、ただ見つめているだけだが、物語上の少女に期待する純粋さそのものでありながら、それは彼女の演技というよりも、映画の仕掛けによるものだ。そんな(セットではなくカットや編集による)仕掛けをばらしつつ逆に感動に繋がる不思議さ。
第72話「闇に咲いた渡世花」本筋と思われる人物たちが芝居をする場面に、錦之介らシリーズ主要の面々が映り込み、何となく絡んでくる(現在の邦画なら鈴木卓爾が最も挑戦的な感覚)。事実上の主役お市を演じる小川甲子が見事に印象に残る。桶の並ぶ空間で彼女が久保明と再会し語り合う場面、『忠次旅日記』(伊藤大輔)を連想させる画で「男に啖呵を切れる」お市の「女」が揺さぶられる(中川信夫は伊藤大輔の名作から男女を逆転させ、そこに断ち切ろうとした過去の存在を浮上させる)。錦之介と小川甲子の酒を交わす場面は、プロによるリアクションの芝居を切って繋いで、ただ二人で酒を飲むしかない時間と感情を作り上げる。クライマックスには殺陣のスローモーションまであり(まさかペキンパーを意識したのか?)、エモーショナルというよりも、錦之介と彼に斬られる人々のアクションも、時間を操作する編集の手つきも、どちらもあえて晒しているようだ(音までスローになる)。畳に横たわる亡骸(それはただ寝ている人々に過ぎない)の並ぶ様も見せて、今回の中川信夫監督回の中でも最も感動的なエピソードに、それが作り物に過ぎないがゆえに価値があることを知らせてくれる。