七里圭監督『背』。上映後は監督自身による吉増剛造の朗読つき(聞けてよかった)。イメフォでの8ミリ作品上映時も「僕はほとんど何もしていません」と仰っていて、今回も「何もしていないに等しい」そうだが、『TOKYO!』メイキングでのポン・ジュノ香川照之のはしゃぎっぷりを記録した本編以上の傑作ドキュメンタリーに次ぐ、感動的なライブ映画だったかもしれない。特に最後の何かするのをやめたに等しい吉増剛造自身の、ガラス越しの影を見続けるような終盤に行き着くのがよかった。最初の映倫マークと、最後の拍手のない終わりもかっこいい。とはいえ七里監督の映画が何をしたいのかと、何の話をしている声なのか、今回も実は理解できていない。いや、映画に理解は必要ないかもしれないが、七里監督本人の非常に落ち着いた朗読を聞くと、この語り口の映画を『のんきな姉さん』(とはいえ、こちらも三浦友和の一言が最後に聞ける手前まで途中やや置いていかれかける)など、また見たいのが本音だが。この話を聞いているうちに置いていかれて声だけ聞くうちに空間だけになる、というのが七里さんの映画なのか。
ちなみにキネ旬星取り表の本作への「お金出しては見ない」はいくらなんでもあんまりだ。

今年は映画館で見られなさそうなので『夏の娘たち』を自宅で見直す。青山真治追悼とは何だか時間が合わず、ハロウィンにも馴染めず、夜LINEをしているうちに目が冴えて、また寝つきがひどく悪く、つまり出かける意欲が失われていく。
和田みさが和田光沙だというのを今回初めて一致する。それは(失礼な話かもしれないが)西山真来と同じく和田光沙もこの映画が一番いいと感じるからかもしれない。この映画の筋というか人間関係というか、それを初見どころか二、三回目も何となく頭に入りきらないままだったが、だからできれば年一回でも見て、だんだんと頭に入ってくる気がする。親戚の集まりと一緒かもしれない。それは「頭に入れる」というのとも別の感覚かもしれない。何かを知る。小林節彦が和田みさの寝床へ現れる場面を謎めいたものと、このいくつかのカップルが変わっていく映画の中で最終的に和田みさと結ばれるのが小林節彦に見えるから余計に謎に感じてしまっていたのだが、今更、この見てはいけないものを見てしまったようで、感動してしまっていいのかもわからないけれど、とにかくこの時の和田みさは美しいと思う。これを物語というものに回収できるものなのか何なのか。結びついては離れ、という関係を楽しむのとも、ただ点がいくつかあるような感覚とも、どちらでもある。
ガクガクズームのどれが堀禎一の演出によるもので、どれが渡邊壽岳さんの提案なのかも(なんとなく聞いてはいけない気がするので)今回見直して、以前は玄関でビールを差し出されて飲む時かなと思ったが、またわからなくなってしまったが(勘の鈍い男なので)。初っ端の下元史郎に寄るところがなぜ?と思ってきたが、西山真来から「私の本当のお父さんは?」と聞かれ「旅の人」と返し(今日ヘッドフォンで聞いて、実は初めて聞き取れた)、また彼女が「もう」と笑う時に、まさに視線が結びついた!という感覚。そのためにはあのズームがひょっとしたらきいているのかもしれないが、断定できない。それにしても渡邊壽岳撮影の映画で、ああやって視線が間違いなく結ばれたという瞬間が何度かある映画は『夏の娘たち』だけかもしれない。
ひろちゃんとの劇中最初の(何年振りかの)セックスまで時間を省略しないのにも改めて驚く。
いつも何だか凄い、と驚いていた川の水浴での「思い出した!」から松浦祐也と西山真来の切り返しになる記憶が水をつたって蘇るような連鎖も、ここでも複数人いるうちで、ついに最後結ばれる二人の視線が何度かカットバックするうちに繋がるということをやっているのだが、今回自宅で見たせいか(聞き取りやすさとも違うだろうが)、ようやくちゃんと見れた気がする。
一階で松浦祐也と離れたはずなのに、西山真来が階段をあがる間に既に上に松浦が待っていて「もう日が昇りますよ」という、あれが物凄く自然というのは本当にいつもゾクッとする。そのまま時間はズレることもなく刻々と、翌日の朝へ、「ひろちゃん」の死へ進んでいく。
「山の人の生まれ変わりかも!」という二人の歩く後ろ姿(決して長い距離でもない)を、あえてそれまでの正面のフィックスから切り返したら手持ちで撮るという判断も、その意味するところ以上に、ものすごく繊細な意思を感じて(感じてばかりだが)、なんだか最近見た映画も霞んでしまった。
以前、堀さんとデヴィット・クローネンバーグの話になった時に「映画監督は撮りたくない画なんか撮らないんだ」と言われたのを思い出した。

TIFFにてエクタラ・コレクティブの『私たちの場所』、最初はどうなるかと不安だったが、映画のスタイルを理解してからは、全然いけると思った。まあ、SMSの文面をそのまま画面にだすのはさすがにいかがなセンスかとかなり微妙だが……。久々に桝井孝則さんのことを思い出した。ウカマウ集団とか、どうにも決して改めて見直したいわけではないが、職場での暴行後の彼女に向けた光がいい。この集団の映画は機会があったらいろいろ見てみたい。