フィルメックスのあたりの日記①

黒川幸則監督『ある歯医者の異常な愛』を見る。
「変態!インポ!歯医者!」(ここが一番笑った)の日常がユルユルと続く。武智鉄二先生へのオマージュかもしれないプッシー・ティースがちょっぴり出てきたり、毎朝忍び込んではケーキをプレゼントして虫歯にするというくだらない作戦など、本当に見ながら「先生なにやってるんですか!」と、しょうもない園部貴一を引っ叩きたくなった。甘いものを食べると虫歯になる、年頃になると自分が想像していた以上に歯医者の世話になる、という二大テーマが重くのしかかる。本当に毎日甘いものを食べたいし、歯も磨きたくないけど、虫歯は想像していた以上に痛いのだ。しかも先生がこんなハズレ医師だったら、もう死ぬしかない。そんなストーカー歯医者の話をエロもへったくれもなくユルユルと見続ける。多摩川はすっかり馴染みの場所になった。

フィルメックスへ。マハ・ハジ『地中海熱』さすがにエリア・スレイマンのスタッフだけあって面白かったけれど、鬱再発後の落とし所は先が読めてしまって良くないんじゃないか。朝のツァイ・ミンリャンに続いて地理学の話が出てきた。犬二匹の性格の違いが見えるのがよかったから、この二匹をもうちょっと見たかった。

『ダム』という映画は死ぬほどつまらなくて、寝ないと死ぬんじゃないかと身の危険を感じ、ただ朝日ホールの席の背が寝るには短すぎて、あまりに辛いから通路のソファで寝た。世の中、死ぬんじゃないかと思うほど退屈な映画はあるんだなと勉強になりました。

チョン・ジュリ『Next Sohee』いまのところ映画祭にほぼ通えていないから、現時点でのベストの一本になる。90分+45分の映画といった調子で、それが見やすいように思う。なんか冒頭がよくないと一緒に飲んだ知人は話していたが、別に冒頭も悪くない(まあ、僕はセラの新作を見逃した低能だから参考にしないでください)。ペ・ドゥナの佇まいに、やはり役者は監督の姿を我が身に宿すのかと思う。キム・シウンの見た雪をペ・ドゥナが一度も見ない。ソヒの見る雪の美しさ(それは主観ショットへと近づいていく)と、その辿る結末に、やはり山中貞雄は見ているんじゃないか。それがソヒの最期にわずかな救いを、どうしようもないにしても、あの光と雪が自殺という道を意思として選択させたかもしれない。ただ「次のソヒ」を防ぐという監督とペ・ドゥナの決意が観客には求められるのは間違いない。にしても、やはりBTSのことはよぎった。食えない人間にとってのアイドルという将来もまた無視できない。工場務めが兵役代わりになるというのもまた、きつい話だ。