ここのところお世話になっているかたからのお誘いを断って、不義理だと本当に申し訳なく思いつつPFF『ワンピース』ベストセレクションへ。矢口史靖監督作は『カメレオンマン』『豚に真珠ハイパー』が面白かった。『カメレオンマン』はトークでも触れられていたけれど、四十になる男女が大学生の声を演じていておかしい。『遺言』では、共通の知人は何人もいるけれど、おそらく話す機会はないだろう田村玲央奈さんが息子さん娘さんと一緒に印象に残る芝居をしていた。特に娘さんの涙をふく芝居のさりげなさは、なんというかおそろしい(笑)。
鈴木卓爾監督は傑作『ポッポー町の人々』の長回しにも驚いたが、1話1カット、このほぼ無予算の本作も素晴らしかった。特にセレクションされた過去作三本のうち、『種をまいたのはばあば?』は二人の男女の会話劇かと思いきや、その一人の影に隠れていた三人目の登場、さらに四人目の女(唯野未歩子)がフレームインし、同じ空間にいながら異なる時制を生きているカップルの会話が繰り広げられる。時折同時に喋るため台詞を聞き取るのさえ困難になるが、鏡と窓の使い方、猫と蝉のフレームインするタイミング、ふたりの女性が背中を合わせるラストまで驚きの連続だった。
新作の『亀夫婦』は夫が亀になる点で、『楽隊のうさぎ』など動物に変身する人間というテーマが通じている。過去作よりもフレームを利用した人物の出し入れがユルくなっているように感じたけれど、鈴木卓爾監督の作風も変化しているのかもしれない。