『カラオケ行こ!』など

そういや山下敦弘監督の映画を何年も見てないと思い『カラオケ行こ!』。
一昨年なら『はい、泳げません』とか、カラオケ教室的な映画は何だかんだ気軽に見やすいし、実は監督の名前とか気にしないで向き合えるジャンルかもしれない。
でも『カラオケ行こ!』は「自分の声を聞いてください」以上の教えは特に無かったように記憶している。そしてやはり山下監督のリズムがあるのはわかるが、個人的にその掛け合いにテンポはあっても、ゆっくり過ぎて、具体性の曖昧さも含めて苦手ではある。ビデオデッキのくだりも、ちょっと悪い意味で(ミシェル・ゴンドリーと言いますか)エモいモチーフになってないかと、そうした映研の記憶は好きではない(ただ最後まで実にうまく組み込まれてはいる)。
だが知らぬ間に臭みは消えて、去年なら『マジックマイク ラストダンス』ばりに、あの綾野剛を主役目線で撮ったフラッシュバックが入るあたりで激しく心動かされた。
そして甘利君が言う通りセンチュリー横切るカットから北野武の柳島克己をバリバリ意識しての撮り方の冒頭からスクリーンがまるで(ラングじゃないけど)蛇を見てるようなうねり方を無意味にカラオケの廊下でやってくれるが、しかし合唱部とヤクザが等しく集団として撮られる展開が涙なしに見れないクライマックスの並行モンタージュに、そして男たちの黙って聞く姿に繋がる。カラオケは歌う側も大事だが(ついに歌う彼の枯れた声がカウリスマキの年齢不詳オヤジと比べても素晴らしい!)、観客は声を出せないのだから、ああした聞く側の演出はやはり大事なのだ。
正直ラストの綾野剛のくだりはあれでいいのか物足りなくはあるが、こうして山下敦弘の微妙に重々しい調子が気にならなくて見れる映画でよかった。

 

ウディ・アレンサン・セバスチャンへ、ようこそ』。
これが引退作というか、ストラーロと組んで以降はどれが遺作でもいいかという黄昏感が強まる(そう考えると『レイニーデイズ〜』は例外的な良さがある気もする)。
どうでもいい映画でゴダール役やったルイ・ガレルが、今度は「フィリップ」の名でガレルと似ても似つかぬ題材の監督役。よく引き受けるな(さすがにカリエールのことは意識しているに違いない)。足舐め芝居も見れる。
老人の映画らしくキレは落ちてもイスラエルのネタは相変わらずどころか「映画で中東とイスラエルの和平を目指す」「SF映画か?」「次回作は国連で上映するつもりだ」など世の中への嫌がらせ同然の台詞の厄介さは状況と相まってヒートアップ。ラストが『欲望のあいまいな対象』か『永遠の語らい』になって全員爆死も期待したが、そうした過激さがないのが持ち味ともわかってる。
また「功労賞」ネタはじめ、「わしゃ勲章なんか要らん!」と言わんばかりの、どうとでもなれ感が、笑うに笑えないを通り越して笑った。
ヒロインはやはり良い。
クリストフ・ヴァルツの意外と気さくな死神がフェードアウトしていくクライマックスになんやかんやジンワリくる。

 

ジェシー・アイゼンバーグ監督『僕らの世界が交わるまで』原題のほうが当然作品にふさわしい。
文化盗用と搾取について共感性羞恥ってやつを覚えながら見る映画としておすすめではある。思わずよせばいいのに!言わんこっちゃない!とスクリーンの彼に向けて叫びたくなる。いや、何もしていない自分よりは立派なんだろうが……。
最初の人前でのライブ後の反応を省略したのはうまいような。
あと10分くらい伸ばして、シェルターでライブやるラストとかあったほうがいいんじゃないか。日本映画にしても若手の作品はオチを切り返しで何となくわかりあった風にしてしまいがちに見えるので、ラストを初めてのライブ配信映像にしたのも、あまりスッキリはせず。