12/31~1/3

・年末に腹を壊し酒を飲む気になれず。大晦日は微妙に調子悪く仕事終わりにどこにも行く気力わかず、でも話題の『窓ぎわのトットちゃん』(八鍬新之介)を見に行く。
なぜか黒柳徹子の声をバックに始まる暗闇の冒頭から落ち着いた響きにもってかれる。正直黒柳徹子の声にもっと騒々しいものを予想していただけに驚く。
巨大パンダの登場も微笑ましい。
何よりプールのシーンに「これはもうアニメじゃないと難しい」と一番驚いたが、それを真っ先に言う自分の感性もロクなものじゃないなと嫌になる。それにしても幻想的で解放的な水中パートへの突き抜け方に感激して文句なし。
『せかいのおきく』に続き今年二度目のウンコを掬うシーンもある映画だが(蝿の音が凄い)、ここでのクール過ぎないか不安な態度の(しかししっかり子供の自主性を尊重した上とわかる)役所広司も印象に残った。
風立ちぬ』『君たちはどう生きるか』と宮崎駿の近作の、戦前・戦中を舞台に夢想と隣り合わせの日々を生きる主人公の話と通じて見える。一方で「アンクルトムの小屋」のくだり、それぞれ異なる視点をもつ人物達がいるからこそのドラマに、ハヤオにはない感動がある。高畑勲亡き現在の、宮崎駿に対するアンサーかもしれない。トモエ学園の焼失シーンは『君たちはどう生きるか』に負けているが、その後の家屋倒壊には見ていてズシンときた。

終盤、合唱をバックにトットちゃんの走るシーンがどんどんとスローになっていくのが凄い。

 

・年明け。早稲田松竹にて五所平之助『恋の花咲く 伊豆の踊り子』。
こんな話だっけ、と戸惑いつつ、殺風景かもしれない村での旅がとにかく愛しい。水辺にいる男女を仰角や俯瞰気味のショットで撮るのは、早稲田松竹なら去年見た『ゴダールの決別』を思い出す。見上げた先の空を映すかと思いきや、陰った水面が映る場面、何の会話か忘れてしまった…。。

 

・今年はもっと自分が見てこなかった映画を見るつもりでA24特集にてスティーヴン・カラム『ザ・ヒューマンズ』。
演劇の映画化だな…という理解に乏しく、演じられるものはタメになった気もしつつ、既視感ある古めかしい作りだという印象で見終える(特にラストカット)。そのわりに一々音がデカく怪物か円盤かやってくるんじゃないかとびっくらかしで心臓に悪い。窓越しの画を挟んできたりするのは明らかに良くない。

 

ジョアンナ・ホッグ『エターナル・ドーター』。
どっちを向いてもティルダ・スウィントン映画。
当然オチは読めるが(その見せ方に工夫がなさすぎないか)、ホラーだかサスペンスだか掴みどころのない薄気味悪い時間が続く、ベルイマン、アルトマン系の女性映画のようで(冷静に考えればヒッチコックか)、意外とケア映画。ティルダ様の年齢不詳感はボウイのMV出たあたりから一層強まった気がする。

 

早稲田松竹にて清水宏『簪』。
一人残された田中絹代が傘を差して歩く切ないラストは雨が降ってるのか、あの傘は実は日傘なのか、フィルムの傷か、階段の水たまりを見て、やはり雨だとわかるが、いずれにせよ、この傷もまた実に情緒的だと思う。
多かれ少なかれ映画を見てると「そろそろ終わるな」という感覚はあるが、数少ない本気で終わってしまうのが悲しい映画の一本には違いない。田中絹代の美しさも、声の低さもうっとりする。