『エイジアン・ブルー 浮島丸サコン』

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加藤周一「〈夕陽妄語〉『エイジアン・ブルー』の事」『朝日新聞』(1995.9.20) pic.twitter.com/co8psvAI3c

— 永田 誠 (@nagatamako) 2023年5月16日

堀川弘通監督『エイジアン・ブルー 浮島丸サコン』を国立映画アーカイブにて。
題材と内容の詳細は教えていただいた画像の記事を読んだほうがタメになる。なぜかくりぃむしちゅー上田の大根演技映画としてバラエティに出ていたようだが、そうして笑いのネタとして消費するのが冒涜に近いくらい、しっかり一度は見るべき映画である。上田も染まってない子役みたいな喋りで可愛らしいし、有田はほぼ何も喋らないなりに何となく良い。まあ、その二人以上に下條正巳なんか出てきただけで半端ないのだが、そのあたりは撮影・照明のテクも間違いない。誰が見ても冒頭のキャンバスを行き来する学生らの間を突っ切って、益岡徹の教室へ窓から入るクレーン撮影と、ラストの灯台にて海へ向かって直立になって亡くなった朝鮮の友を悼む佐藤慶を旋回するような撮影が凄いのだが、技巧派の名匠、堀川弘通の映画だから、そういうわかりやすいところ以外も、刑務所で浮島丸出航の知らせと、その安全が一切保証されてない(口封じ、責任逃れとしか思えない)状況を耳にした高川裕也へのカメラの正面へ回り込む動きなど、移動もカットバックも一々練られている。撮影・林淳一郎、照明・前原信雄の組み合わせは『棒の哀しみ』もあった(編集も同じ飯塚勝)。モノクロでの雪景色もデジタル撮影の可能性高いが見劣りせず、特に彼岸へ向けて旅立つような浮島丸の儚い姿も印象深く、『子連れ狼』シリーズや『お引越し』の下石坂成典による美術の効果か、その遠のいていく姿は高川が隆大介との別れを止められなかった悲しみ(病床の妻の「死んでも帰りたい」と隆大介の「もう日本には一秒もいたくないんだ…でも日本にも良い出会いがあった、ありがとう!」と握手するくだりが実に痛ましい)とともに目に焼き付く。隆大介だけでなく、ベンガル石橋蓮司のいやらしさにも妥協がない。絵沢萠子追悼としても必見。