『Terra』(鈴木仁篤、ロサーナ・トーレス)

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↑「丘陵地帯」について 鈴木仁篤、ロサーナ・トレス インタビュー(聞き手:赤坂太輔)

 

国立映画アーカイブにて『Terra』(鈴木仁篤、ロサーナ・トーレス)。
撮影:鈴木仁篤 録音:ロサーナ・トーレス 編集:鈴木仁篤、ロサーナ・トーレス
上映時間60分なので疲れずに見れる。炭焼窯と、ヤマウズラの狩りなど。誰が誰だかわからないわけではないが、ここで映っている何人かがどういった誰なのかはわからないし、特にそういったことを考えることもなく見た。ある炭焼窯での作業の手つきを寄ったり、引いたりしながら見るという印象でもない。その工程の連鎖が映画の中から浮かびあがるかと言えば、そうかもしれないし、違うかもしれない。いくつかのショットが組み合わさって一つの時間を作り上げるというよりも、『丘陵地帯』の手持ち撮影がそうだったように、ある時間・状況ではここからしか撮らないし、そこから別のショットとの間では撮らなかった時間が空く。そういった作品に見える。
炭焼窯での作業をロングで撮る時は、最初は誰もいない画であっても、人やトラクターがインしてくる。そうして構図が賑やかなものになる。そもそも窯から噴き出た白い煙が常に横へ横へ移動し続け、画から外へ抜け続けている。風や雲の動きか、光の加減の変化が窯や樹々、水面に反射されて動き続ける。イン・アウトの変化を引き込む時を待ってカメラを置いた、これは待ちポジの映画なのか。常に山羊や犬や鳥や様々な動物の鳴き声が画面外から響いてくるが、なかなか映ることはない。そこへ雨の降る予感が音としても重なったショットは目に見える窯に照らされた光の変化と合わさって、とにかく騒々しい。それでも狩りの場面では、手前に猟銃を置いている老人という画の奥で、小さい点すれすれの犬の群れが見えて、かなり面白い。猟師二人の座っている場面では、前にあるカメラを見つめたりしながらも、画面外の動物へ呼びかければ、音となって画面外から返ってくる。水面では反射する光の点滅かのような、きらめきのような鳥の飛び交う様が見える。そして驚きのラスト。音は画面外だけでなく、粘土を壁に投げて当たった時のペチッといった音はじめ、印象深く聞こえる。
窯には扉があって、そこからの出し入れが行われる作業をロングで撮った映画でもあり、合間には誰もいない場で扉に寄ったり、その壁には作業する人の影が映って、実際は画面外の背後で起こっているはずのことなのに、内部から投影されたようにも見える。扉の中では、モノクロの中にわずかに炎のちらつく内部の炭のアップがあり、また終盤には扉の内側から外へ向けて撮られた画もある。当然、炭焼窯の中は熱くて、その扉が閉め切っている時に本当は人なんかいないはずなのだが、噴き出ている煙が水辺へ向かっていく中にカメラが置かれた、固定されているはずなのに迷い込んでいるような不思議な画の中では、窯から出て行った幽霊たちと遭遇し、それでも対話などできず逃れ続けているようだ。作業している人々の家の中にカメラが入った画は一つもなく、むしろ遠景から夜の猟の成果を祝う様子や、音楽を聞きながら食事などしている様を、それぞれわずか1カットで捉える。一方で炭焼窯こそ誰かの住処のようでもある。わりと序盤にあった煙の中に迷い込むような画に対して、終盤には窯の内側から出て行った人々を見送ったかのように、玄関口に見える画がある。この映画は炭焼窯の中にいる存在に入ることを許された、招かれた話かもしれないし、単にその中の誰かとは会えず、見送ることしかできないということかもしれない。作業そのものはロングの構図と画面内外を行き来する人で捉えられ、その痕跡にカメラは近づく。

終盤に水辺で「あそこに石を投げたらどうなるか」「そうしたら戦争になる」と冗談交じりのやり取りが交わされる。あれが何だったのかといえば、単に水に石が入ったら、飛沫が上がってか、何かわからないが大変なことになるといったニュアンスらしいのだが、物事にはそれぞれの領域があって、そこを踏み越えたら何かが起こるという話にも聞こえる。