ジョン・ランディス『ステューピッド おばかっち地球防衛大作戦』度を越して酷い映画らしいという感想が気になってVHSで見る。信じられないくらい馬鹿な一家が出てきて、驚くほど一切の下品なネタがない。ある意味では渋谷のリヴェットに近い? たしかに笑えないが、わりと最後まで見れる。狂ってるとか、異様というわけでもなく、ただ下手ではない映画というのが、かえって妙な困惑が続く。こんな映画は見たことないかもしれない。CGの犬猫との共演が非常にチャーミングで癒やされる。

国アカにて神龍寺コレクション。だが問題作の教育勅語謹解映画の時間に途中でウトウトしてしまい、肝心な場面を見落としたらしく悔しい。なぜか海水浴から始まって、無人の海辺をパンした後に、スタンフォードのペナントが出てくるなど予想できなかった。子役の娘が妙にいい顔をしている。『利根川情話 枯すゝき』は歌唱場面の間、フィックスのほぼ動きのない画だが、遠景を舟が一艘ゆっくりと横切っていったり、手前などの草木が風に揺れていたり、奇妙だが悪くなかった。舟を見送るカットも印象に残った。最後の『実写 霞ヶ浦航空隊』はボンヤリ空を飛ぶ飛行機を眺める。「爆撃訓練」の字が出た後は現存していず会場が真っ暗になったのが今日のハイライトだった。

コズミック出版のDVDからグレゴリー・ラトフ『女の戦い』。ナチス占領下のパリにて500人以上の連合国側パイロットを脱出させた地下組織の女二人の物語。グレゴリー・ラトフはウェルズの『黒魔術』だけ見て、面白かったかどうかさえ覚えていない。撮影リー・ガームス、何より主演のコンスタンス・ベネットが製作を兼ねていることに驚く。アラフォー女性二人の友情を軸にしたパルチザン映画は初めて見たが、それだけでグッとくるものがある。ウィリアム・A・ウェルマン天晴れウォング』を見る。凄く面白かったが、見終わってからTwitterを検索すると、だいたい自分程度が書きそうな感想は書きつくされていたから、感想を書く気が失せてしまった。銃はおそらく一度も発泡されず(記憶違いかも)意外と景気よく振り降ろされないハチェット(だからこそ効果がある)。冒頭の抗争での長回しをぶった切るドーンと出る旗とか、アメリカ人の詐欺野郎と目線を全然つなげないどころか徹底して逆向きの切り返しとか(アジア人は何を見ているか考えてるかわからないってこと?)、絶対に言ってはいけなさそうなラスト(その画が繋がってたんだ!という衝撃)。また戻ってくると凄みをきかせながら階段を降りていく緊張感もあるが、もう二度とハチェットは飛ばない。既に刺さっていたのだ。この唐突な幕切れ。コンプトン・ベネット『第七のヴェール』。見た後にジュネス企画を経てアマプラ入りしているのを知る。何となくジュネス企画のよりも綺麗だった気はする。何でもあるような、ないような。とにかく唯一の理解者なのか単なる精神的DVクソ野郎なのか、このジェイムズ・メイソンと結ばれるのは、いくらなんでもない!けどジェイムズ・メイソンなら許せちゃうというか泣かせるんだなあ、何でだろ、だめかな? 今なら絶対に『ベッドとソファ』というか彼女を自立させるだろうが、これはこれで精神科医と共に彼女を正気とも狂気ともつかぬ側へ遠く見送るような結末。とにかく期待通りのジェイムズ・メイソンが見れて満足。

佐向大脚本・監督『夜を走る』を見る。撮影・渡邉寿岳の映画を割と大きなスクリーンで見れたのは初めてかも、と思いつつ振り返ると『いさなとり』は当時のフィルセンだし、新文芸坐の『王国』は見逃したが。アテネ・フランセペーター・ネストラー『外国人1 船と大砲』は見逃したが、そこに渡邉さんと赤坂さんとか話していて何だか羨ましかった記憶がある。そこに近いものが『夜を走る』のスクラップ工場の撮影にあったかもしれないが、あの火花を手持ちで撮影しているだけで興奮した。渡邉寿岳さんの画に見かける木々もトンネルも、いろいろ出てきた。
何が何だかという話が、そもそも勝手に一夜だけの話かと思いきや、嫌になるほど夜と昼を行き来する。つながらないものになりそうで、この話には相応しいスタイルだったに違いないという気にさせる。かつて渡邉さんがカメラマンの存在を意識するきっかけになったと名前をあげた清順の大正三部作を並べるわけではないが、あの脚本を破壊しているのか、決してわけがわからないわけでもない感じ。いや、でも別に『夜を走る』は脚本通りというか、監督が脚本を兼ねているわけだからおかしくもないはずだが。後半の怪しい団体とか、話自体にのれないところはあって、ラストの『ミスティック・リバー』の天井がよぎる穴へ向かう(あれは覗き穴で、この声はそこから聞こえるのか?)曖昧さもあれでいいのかわからないが、相乗して、傑作でも何でもないが、これはこれで、うん、という感じになる。渡邉寿岳さんのインタビューから引っ張るなら、なぜ踊るのか、というのを理由付けはしないが、おかしなことではなく見れる。ダンス映画なんだろうかわからないが、『ウエストサイドストーリー』と同じく、踊れるらしい人を、踊りを撮れるかもしれないカメラマンが撮る。その確信があるかわからない危なっかしさに価値がある。雲天をバックに影になりそうな人たちや、どうしても『王国』のことがよぎるけれど終盤を除き家庭人ではない足立智充、飲みを長引かせる⽟置玲央、車中泊してるだけで何だか若干許せなくもない上司、油断できない存在らしい女の子や、樋口泰人にパッと見似てるが全然違う社長とか、やっぱり『ソラからジェシカ』のヒロインだった嬢とか、もう怖いのかそうでもないのか判別つかない松重豊とか、生々しいともいえないが(彼らは全員マスクをつけるのをワクチンを打ったのかやめている)、いいんだか悪いんだかわからないが、おかしくもない。とにもかくにも撮影・渡邉寿岳の映画は必見。そこにどう転んでも限りなく微妙な映画しか作れないかもしれない日本の小規模な映画でも食うか食われるかの賭けがある。