8/12

ジョージ秋山の追悼ムック、後回しにしていたが買う。
編集者座談会にて『浮浪雲』締め切りブッチ切っても、なぜか間違えて1ページ多く書いてくることが稀にあり、指摘するとその場で一枚いらないのを削る話が面白かった。『浮浪雲』はページ順が出鱈目でも話が通るように書いてると本人は言うらしい。
編集者が言うには、構成が見事で無駄なコマがないからできる芸当という。なんだかジョン・フォードが撮影中にシナリオを何枚か破り捨てた話を思い出すが、実際編集者も「映画はあまり見てないみたいですけどね」と話しているから、編集で削る映画の発想がよぎるのは間違いない。
にしても『灰になる少年』単行本に収録された『フィッシュラーゲ』短縮版とか、確かにジョージ秋山(だけじゃないだろうが)には何だか正しい状態かよくわからない繋ぎの漫画もあるが。復刻進んでる方とはいえ(『デロリンマン』黒船編は本当に面白かった)まだまだ読めてない少年誌の作品(赤ちゃんが心の声で「ぶっ殺してやる」を連呼するらしい『ざんこくベビー』とか、いきなり惑星分裂するらしい出鱈目なやつとか)や『ラブリンモンロー』(プレミア価格つけるケチな奴らのせい)とか、できれば紙で復刻してほしい。
衝動で電子書籍をほぼ全巻購入してしまった。

8/11

気になったので『キネマの神様』を見に行く。在宅勤務もできない仕事の僕はもう何が何だかどうでもよくなって休みの日は近所の映画館に行ってしまうのだが、実家暮らしなので親からとても心配されている。そして僕が『キネマの神様』を見に行ったと知り、そんなものでデルタ感染したら悔やんでも悔やみきれないだろうと嘆いていた。
良い映画という気はないけれど、それでも見るべきところはあると思う(少なくとも『東京物語』のリメイクとか、先日見た『サマーフィルム』よりは)。なんで清水宏がモデルの監督の役をリリー・フランキーがやるんだろう(にしても年代的にはかなり出鱈目)と不満だが、何となく慣れてしまった。その辺は開き直ってるのか、どうでもよくなってくる。ギャンブル依存症とアル中を克服するために、名画座でもケーブルテレビでもレンタルでもいいから映画を見るのに使ってくれた方がマシ、という説得をされて預金カード投げ捨てるあたりから引き込まれた。身も蓋もない理由だが、酒と賭け事ほどの欲望を映画が満たしてくれるものか?(そういうふうにはちっとも見えない)。
野田洋次郎が意外と良かった。大島渚みたいなキャスティングの賭けは感じないが。山田洋次は本当は何がやりたいとかあるのかさておき、菅田将暉永野芽郁との結ばれるまでから(色恋や関係性の話が浮上するとジョー・サルノと同じく誰かの肩越しに人が立つ構図を入れたがるが)野田洋次郎とのその後を一気に雪の降る日の小林稔侍と宮本信子に繋げるのは、ある技を感じて泣かせる。
泣かせるが、何かが踏みとどまらせる。現代パートのリアリティがあるとかないとか関係のないマスクしてるお年寄りとかキネマ旬報とかラグビーとかクラウドファンディングとか、宮本信子にトイレ清掃させているとか、とにかく何が何だか陰惨な華のなさ(なんだかんだ沢田研二はいいと思うし、孫の部屋に「今日から僕は」といくつも書かれているのは好きだが)というか、面白いのかもよくわからない脚本賞受賞の100万円程度じゃ何の救いにもならないし、なぜか小林稔侍と沢田研二のたぶん最も重要な会話にフラッシュバックを挟むのも興ざめだが(やはり上品とか全てを語らないとかの問題ではない)、あとは死んで映画のスクリーンの世界へ帰るしかないとか、何ともいいようがない。こういう現実を見てるのかどうかよくわからないが、ひたすら何か幻滅した態度のものには何の救いもない。

 

『キネマの神様』だけじゃ物足りないから『ワイルドスピード ジェットブレイク』を見る。
ワイルドスピード』は『スカイミッション』と『スーパーコンボ』しか見ていないので、いつか通して見たいが、自宅で見る気になれず映画館で特集しても行く気になれないが……いきなり『フォードvsフェラーリ』に便乗したわけでもないだろうけど、普通にレースの話から始まる。過去の兄弟役の短いあれこれが結構切ない。無茶苦茶な話に変わらないし、別に演出もクラシックな佇まいでも何でもない(というか人力の宇宙飛行なんか最近のトム・クルーズが自分でやる『ミッションインポッシブル』の延長にある感じ)が、妙に落ち着きと余裕があって(自分が見た二本はやっぱり灰汁が強かった)わりにあっさりと終わる。磁石の車がやたら一般車を犠牲に突き進むのはタチが悪いが(無免許らしい設定の迷惑なナタリー・エマニュエルはかなり魅力的)、みんな『リオ・ロボ』か『スパイダーマン2』を思い出すミシェル・ロドリゲスの作動させる装置によって電線が追っ手の車を妨害させるあたりから、宇宙と地上の切り返し(すべてが解決してから見える月)まで、とにかく泣かせる。これまた傑作かもしれないが、振り返ると前半はそんなでもない。何よりこんな出鱈目な話に兄弟のエピソードを付けるのは異常。

8/9

『サマーフィルムにのって』を見る。
たぶんどうでもいい映画だろうと予感していたが、これを2020年のベストに入れている人もいたので、自分とその人との好みの違いをはっきりさせるために見に行った。そんなつまらない対抗意識というか、単なる嫉妬は捨てて生きるべきなんだろう。何よりこの映画自体が同じようなことを伝えようとしていて、本当に癪に障った。
だいたい『桐島、部活やめるってよ』と同じような感じの映画で、はっきりいってどっちもどうでもいい。違うとすれば主役が女子になって、映画部内の内ゲバになってるとか、別に運動部とは対立していないとかだが、正直そんなことはどうでもよかった。あっちが8ミリなら、こっちはいきなり携帯で映画を作る。どっちにせよ、リアリティはない。別に撮影現場には行ったことないから実はこんな感じなのかもしれないが、それでもあんな撮影で、あんな映像ができるわけがないと思う(たぶん)。まあ、そんなの誰だってわかるんだろうし、でもそれをロマンと思って見る余裕が自分にはない。あとライバルの(ZINEで特集されたらしい)女子高生監督とは、和解する展開とはいえ(ご丁寧にちゃんと映画の勉強をしているらしいところを見せるが)ほとんど悪意しか感じない。大事なところで男女二人走り出すのは、一応山戸結希へのオマージュなんだろうか(そんな余計なことを考えるくらい見ている自分が恥ずかしい。本当はもう死んでいる人たちの作った映画だけ見ていた方がいいのかもしれない。)。まあ、そんな話を陰湿な僕が言う資格もないだろう。
とにかくリアリティは無視。普段は映画を見てリアリティがどうの言ってないのに、こうしてネットでは陰湿にリアリティがどうの書く自分は本当につまらない人間だと思う。しかし先日の『べいびーワルキューレ』にしろ、マンガとしか言いようのない飛躍。編集の場になって酷い映像を見てうんざりするものだと思っていたが、それは僕みたいな何の才能も飛躍もない人間だけの話だったらしい。そんな書き方はマンガを馬鹿にしてるんだろうが、誰かの書いた画で読めば面白かったり暇つぶしにもなったりするが、人間がやってるのを見ると無性に腹が立ってくるというか、恥ずかしくて見てられない。何度も眠気ではなく目を閉じた。
最後は『桐島』のゾンビみたいなノリで、あれがフィルムがどうの言うのぶっ飛ばして妄想の話になるなら、こっちは上映会のはずが演劇になる(脚本がロロの人、といっても見たことないからわかりませんが、なんとなく女子高生が主役の話を書きそうな印象をもっていた)。伊藤万理華の姿はいいけど、どうせみんなこういう汗かいているのを見て感動したいんだろ!とか、すっかり陰湿な人間としての感想しか出てこない。祷キララはなぜかメアリー・エリザベス・ウィンステッドみたいに屈強な大人になりそうに見えた。

8/5

仕事終わりの21時にテアトル新宿がレイトショーをやってると知り、映画を見に行く。ここまでくるとレイトショーが一番安全なんじゃないかと、誰でも思うに決まってる。
『ベイビーわるきゅーれ』(阪元裕吾)は昼間に見るような映画ではなかった。ゾーイ・ベルかブラピくらい輝いている伊澤彩織(スタントウーマン)がよかったので、少なくともそこは一見の価値ありだと思うが、たぶん見た人全員言ってることな気がする。ハーレイ・クインなのかフワちゃんと『いつかギラギラする日』の荻野目慶子を混ぜた感じの敵役とか、ちょっとうるさすぎるが、それでも役者みんながよくもわるくも楽しそうだからか、ちゃんと抑制されているのか、やりすぎな感じはしない。どうにもこうにも親父ヤクザの暴走とかマンガとしか言いようがないというか、ふざけすぎな気もしてしまうが。暴力と日常の往復も『キックアス』とか佐藤信介とか漫画原作だから当たり前といえばそうだが、こっちは漫画原作じゃない分、余計いろいろそんな軽くていいのかとは思う(『ゾンビランド』もこんな感じだよとか言われたら返答に困る)。少なくとも暴力が起きるまでの緊張感とかはほぼない。突発的な怖さも痛さもない。ただただ攻撃的(そこが興味深いともいえるが)。時間や遅さのなさが、SNSネタのジョークを出したりするのにも通じてる気がする。職場の話は「コンビニのサンドイッチは高い」話とかしか響かないが、もっとあざとい人ならサンドイッチふるまうところを泣かせようとか考えるかもしれないが、さすがにそんなことはしない。まあ、僕もSNSから距離を置くべきなんだろう。

8/2

セラ『ジャングル・クルーズ』見る。別にセラはアクション映画がうまいのかよくわからない、何が映ってるかもよくわからない(確かに僕も蜂蜜じゃなく蝿まみれの腐乱したゾンビかと思った)けど、なかなか面白かった。よかったところはほとんど周りの人が言う通りな感じで、やや期待しすぎたかもしれない。虎や同性愛の話はむしろホークスのことが念頭にあるのかとか。あとは俳優業も達者なヘルツォーク本人が出てきてもよかったのに。

それより数日前にリーアム・ニーソンの新作『ファイナル・プラン』が近所で最終日だから見に行く。Twitterの人たちがそこそこ盛り上がっていたから。たぶん悪くない。『アオラレ』よりは間違いなく面白い。いいところはだいたいTwitterに書いてある通りなんだと思う。ただ結構普通にいい感じのロバート・パトリックがすぐ死ぬのは正直残念だったが。犬連れた哀愁あるFBI捜査官は『チェンジリング』のアンジェリーナ・ジョリーを精神病院へブチ込む捜査官だった。

自宅では『赤胴鈴之助 三つ目の鳥人』(森一生)、冒頭から紙芝居アニメが続いて戸惑う。敵役のアジトであるお化け屋敷のシーンで渡辺浦人の電子音がビヨンビヨン奏でられたり、タコの着ぐるみが出てきたり、若様の寝床をぬいぐるみが囲んだり(今となっては)かなり変な映画。シリーズの他の作品は安田公義(『座頭市』とか森一生より俗っぽいというかゲテモノ趣味に傾く印象)だがまだ見てない。

8/1

録画した『喧嘩安兵衛 決闘高田ノ馬場』(89年 監督:田中徳三)を見る。
田中徳三×中山安兵衛なら『ドドンパ水滸伝』はとても面白かったと思うが、初っ端からドドンパやってて面食らったのと、安兵衛のその後を語らないまま終わるのが逆に悲劇を予感させていた気がする。それ以上はあまり思い出せない。
田中徳三らしく掛け合いが楽しく、森川正太のインチキ手相占いに引っ掛かるところを中心に一つの空間に人物が集いだしてワンカットにまとめるあたり素晴らしく(近年なら堀禎一『夏の娘たち』を嫌でも思い出す)テレビドラマの狭い画面いっぱいに長屋の面々を詰め込んでいる感じがいい。浅香光代がやってくるところなんか非常におかしく、堀ちえみが森川に言われるがまま眼を閉じて念じた途端に、一目ぼれしていた高橋英樹が画面オフの声から森川の隣に瞬間移動的に姿を現すあたりの繋ぎも、なんだか愛おしい。
それでいて安兵衛=高橋英樹がマキノのほど泥酔しきっていず、当然『ドドンパ』の勝新太郎のイメージとは全然違うあたりが、人情味と乾いたテイストをブレンドしている。萬田久子が切られ、田村高廣も死に向かい、次々大事な人が死に、復讐を達するまでの展開が、どのシーンも引き延ばせそうなところを見事にぶった切って繋げていく。なのに高橋英樹を非情な人とは少しも思わせない。あくまで恐ろしいほど見事な時間の省略。これまた『夏の娘たち』に伝統として引き継がれていた技なんだろうと思いたくなる。
にしても唐突にアメリカ映画的というか日本なら刑事ドラマだろう人質救出場面を時代劇で見れるとは思わなかったから、本当に田中徳三はいろんなジャンルを時代劇に入れ込むセンスがあると驚く(なんといっても最初が『化け猫御用だ』だから)。もっとリアルな現代劇の田中徳三もあるなら見てみたい。
脚本の鈴木生朗が今ラピュタでやってる『めくらのお市』(傑作)を書いてるとか、撮影の萩屋信は『史上最大のヒモ』だと検索して知る。

www.jidaigeki.com

7/29

フィル・カールソン『要塞』(70)を録画。『サイレンサー 破壊部隊』(68)と『ベン』(72)の間。まるで少年版『特攻大作戦』になってしまいそうなところ(一本道をまるで記念のようにロック・ハドソンの運転で少年たちが機銃掃射と爆破の凄まじい暴力の快感)をグッと堪えるような映画。というかリー・マーヴィンジェームス・コバーンのことが思い浮かびそうな役をあえてロック・ハドソンという時点で面白い(アンソニー・マンの映画に出るジェームズ・スチュアートみたいといっていいのか)。

何作かフィル・カールソンの映画を見ての共通点。地方(山林、西部の開拓地など)のコミュニティへ都市部から来た男(今回はアメリカ人)が、「獣」(それは実際に動物であったり、凶暴性を剝き出しにした人間であったりする)と対峙する。しばしば潜伏活動に徹する主人公は、捜査、追跡、作戦の過程で(観客の信頼を裏切るような)自身の野蛮さ・卑劣さも晒すことになる。一方で舞台に水辺、斜面、風の吹く場所がしばしば選ばれ、そこでの儀式は僅かながらでも朗らかな時間を与えてくれる。歩く人々や車の移動の捉え方は、いろんな意味でライカートと真逆になる。

ナチスへの復讐心からリーダー格の少年が女医を辱めようと仲間たちに押さえつけさせるのに対し、ロック・ハドソンもまた女医との肉体関係において少年の行動を反復する。少年たちは口笛を連絡手段に用いるが、これを信号だけでなく少年との衝突を緩和させるためにもロック・ハドソンは使う(彼が一触即発の段階で少年の頭に手を乗せることで回避する演出が素晴らしい)。www.wowowplus.jp