8/11

気になったので『キネマの神様』を見に行く。在宅勤務もできない仕事の僕はもう何が何だかどうでもよくなって休みの日は近所の映画館に行ってしまうのだが、実家暮らしなので親からとても心配されている。そして僕が『キネマの神様』を見に行ったと知り、そんなものでデルタ感染したら悔やんでも悔やみきれないだろうと嘆いていた。
良い映画という気はないけれど、それでも見るべきところはあると思う(少なくとも『東京物語』のリメイクとか、先日見た『サマーフィルム』よりは)。なんで清水宏がモデルの監督の役をリリー・フランキーがやるんだろう(にしても年代的にはかなり出鱈目)と不満だが、何となく慣れてしまった。その辺は開き直ってるのか、どうでもよくなってくる。ギャンブル依存症とアル中を克服するために、名画座でもケーブルテレビでもレンタルでもいいから映画を見るのに使ってくれた方がマシ、という説得をされて預金カード投げ捨てるあたりから引き込まれた。身も蓋もない理由だが、酒と賭け事ほどの欲望を映画が満たしてくれるものか?(そういうふうにはちっとも見えない)。
野田洋次郎が意外と良かった。大島渚みたいなキャスティングの賭けは感じないが。山田洋次は本当は何がやりたいとかあるのかさておき、菅田将暉永野芽郁との結ばれるまでから(色恋や関係性の話が浮上するとジョー・サルノと同じく誰かの肩越しに人が立つ構図を入れたがるが)野田洋次郎とのその後を一気に雪の降る日の小林稔侍と宮本信子に繋げるのは、ある技を感じて泣かせる。
泣かせるが、何かが踏みとどまらせる。現代パートのリアリティがあるとかないとか関係のないマスクしてるお年寄りとかキネマ旬報とかラグビーとかクラウドファンディングとか、宮本信子にトイレ清掃させているとか、とにかく何が何だか陰惨な華のなさ(なんだかんだ沢田研二はいいと思うし、孫の部屋に「今日から僕は」といくつも書かれているのは好きだが)というか、面白いのかもよくわからない脚本賞受賞の100万円程度じゃ何の救いにもならないし、なぜか小林稔侍と沢田研二のたぶん最も重要な会話にフラッシュバックを挟むのも興ざめだが(やはり上品とか全てを語らないとかの問題ではない)、あとは死んで映画のスクリーンの世界へ帰るしかないとか、何ともいいようがない。こういう現実を見てるのかどうかよくわからないが、ひたすら何か幻滅した態度のものには何の救いもない。

 

『キネマの神様』だけじゃ物足りないから『ワイルドスピード ジェットブレイク』を見る。
ワイルドスピード』は『スカイミッション』と『スーパーコンボ』しか見ていないので、いつか通して見たいが、自宅で見る気になれず映画館で特集しても行く気になれないが……いきなり『フォードvsフェラーリ』に便乗したわけでもないだろうけど、普通にレースの話から始まる。過去の兄弟役の短いあれこれが結構切ない。無茶苦茶な話に変わらないし、別に演出もクラシックな佇まいでも何でもない(というか人力の宇宙飛行なんか最近のトム・クルーズが自分でやる『ミッションインポッシブル』の延長にある感じ)が、妙に落ち着きと余裕があって(自分が見た二本はやっぱり灰汁が強かった)わりにあっさりと終わる。磁石の車がやたら一般車を犠牲に突き進むのはタチが悪いが(無免許らしい設定の迷惑なナタリー・エマニュエルはかなり魅力的)、みんな『リオ・ロボ』か『スパイダーマン2』を思い出すミシェル・ロドリゲスの作動させる装置によって電線が追っ手の車を妨害させるあたりから、宇宙と地上の切り返し(すべてが解決してから見える月)まで、とにかく泣かせる。これまた傑作かもしれないが、振り返ると前半はそんなでもない。何よりこんな出鱈目な話に兄弟のエピソードを付けるのは異常。