恩地日出夫『あこがれ』を見にヴェーラへ。武満徹特集なのに「蛍の光」が頭から離れない。山田太一のドラマほとんど見てないのが、なんかもったいないことをしてきたように思う。ブラジル行きのさくら丸の出港、乙羽信子の声のかき消されているとも違う聞こえ方(録音は成瀬巳喜男と組んでいる藤好昌生)。この映画の親子だけじゃなく、あの場にいる全ての人に別れがあることが押し寄せてきて、胸に迫る。乙羽信子の隣のおじさんも名演だった。『新宿バス放火事件』といい、なぜ一人で生きられてしまったかといえば、それはつまり一人じゃないからだ、ということだろうか。しかもその誰かは既に目の前にいない。序盤の施設にいた頃と現在の跨ぎ方に成瀬→堀川→恩地の流れがあるかもしれないけど、後年のテレビドラマとかからは想像できなかった。むしろ一郎が実の母へ会って別れを告げるか決めかねたまま、あえて何も告げず育ての親の元へ向う列車に既に乗っているという場面転換が、孤児と旅の映画として印象に残る。その意味でカラックス上映のタイミングと重なったのはちょうどいいのかもしれない。『月の砂漠』のこともよぎった。泣き顔の見える時が(それを見た側の反応含め)どれもいいというのは珍しいかもしれない。

録画した堀川弘通監督『アラスカ物語』を見る。脚本:井手雅人、撮影:岡崎宏三、編集:黒岩善民。前半のエスキモーとの交流を見ながらフラハティはともかく『バレン』を見たいと思う。それくらい、なかなか挑戦的で面白い。特にモグラたたき風のアシカ猟はかなり可愛いが最後は容赦ない。エスキモーが三林京子岡田英次夏八木勲丹波義隆、そして宮下順子(一瞬だがかなりいい)というのも最初はおかしいが結構いい。ウィリアム・ロスの鉱山師も貧乏くさくなく、なんといってもインディアンとの交渉を引き受ける日本人の宍戸錠がいつも通りといえばいつも通りだが、それだけに異国の地にいる北大路欣也の触れる母国の空気として(「今日は味噌汁の話をした」)これ以上ない絶妙なバディじゃないか。さらに丹波哲郎がインディアンの酋長として現れてからクライマックスの対話も面白い。わりに緩やかに時間が過ぎつつ、『狙撃』の監督らしく痺れるところもあって、非常に見やすい。