『ラブレス』(キャスリン・ビグロー、モンティ・モンゴメリー)『青春がいっぱい』(アイダ・ルピノ)

一か月以上更新できていなかった。

下高井戸シネマにて『ラブレス』(キャスリン・ビグロー、モンティ・モンゴメリー)。吉祥寺バウスの爆音オールナイトで『Helpless』『断絶』『悪魔のいけにえ』と一緒に見て残念ながら爆睡した一本だが、改めて見ても眠気に襲われつつ、しかし良かった。いつの時代だかよくわからない、フラッシュバックしてるのかもわからない、いかに命を粗末にするか、生き急いでいるようで何もしない。もう古びた題材のようで、懐古趣味でもなく、様式美に耽るほうに近いが、ただ目の前を通り過ぎていくだけでもある。バウス併映の三作以外なら(『ワイルド・アット・ハート』ではなく)『ソナチネ』か『ブラウンバニー』か『デス・プルーフ』前半に近いか。この主役のようで今ならありえないくらい薄いデフォーのナルシスティックなようで透明な在り方。地獄の時間になるかと思いきや急転直下の呆気ないラストのようでペキンパーならまだまだ続くみたいな半端なラストの後、あっさりと去っていくバイクと共に、あの自動車も走り出すのではと思ったが、それがまさに『Helpless』か。

そしてアイダ・ルピノ『青春がいっぱい』。ロシアの某サイトで見てるから驚かないけどね……とマウントにもならないマウントを心の中で取っていた一本だが、日本語字幕付きで見て時間経過の異様さに全く気づいていなかったと知る。バスに乗って日帰りしただけかと思いきや夏季休暇とか行ってる。学校以外の舞台は列車と駅しかない。やや忙しない気もするがシーン内で飛ばしている印象もないのに、夜9時から11時までロザリンド・ラッセルが廊下を歩いてくるうちに過ぎていく。
気づけば寝る前に「卒業まで四週間」と言い出し、翌朝は「大変!」とか言ってるので「まさか卒業!?」と思うと、6時のチャイムがなく8時になっていて「沈黙の日曜日」?いや火曜日?といううちにシスターの一人が心臓病で亡くなったと知らされる。あのシャボン玉事件とボヤ騒ぎ以外寝ている人だと思いきや「競走馬」の話のシスターらしいのだが、顔を思い出せない。遺影も出ない。その代わり、棺の俯瞰から、卒業の花々にカットは変わる。亡くなったシスターに対して軽視しているわけでもなく、ここにはただ「死」がある。
ある種のB級映画の画面に通じる、二人ないし複数人の人物をミディアムサイズで並べて収めた画のバランスの良さに対して、左右の丈がズレたサイズに縫われたドレスのような歪さ。この知らぬ間に出来た不均衡は黄色いバスの行き帰りだけでなく、ヒロイン二人の卒業にて最高潮になる。こんなに喋る二人なのに、最後は「話してほしかった!」から始まる。
ボイラー修理代のためにもコンクール優勝したいヒロインたちに、校風に相応しからぬ衣装での参加をロザリンド・ラッセルが認めているんだか何だかわからないくだりでの、彼女の表と裏の使い分けというか、もはや内面など想像させる以外ないという映画自体の割り切りの過剰さこそアイダ・ルピノらしさかもしれない。
だからこそ終盤の別れの感動も高まる。車両を前にした三者の位置関係も時間も飛ばすことなく繋げる。丁寧すぎるわけでも慎重すぎるわけでもなく、むしろさりげなく爽やかさを失わず時間をかけて別れの場面を繋げる。そして見送る二人に対して車窓から半身出した彼女を乗せて列車が遠のいていくワンカットのロングに至るという、シンプルな力強さが貫かれている。