インヒアレント・ヴァイス』も『ファントム・スレッド』も好きではなかったが『リコリス・ピザ』は面白かった。ショーン・ペントム・ウェイツブラッドリー・クーパー、ガス欠(あのハンドルさばきとマジ顔は冷や汗が出た)とヤバすぎてどうなることかと思った。
というか、なんだったんだ。
ベニー・サブディの事務所にブラピのカメオ出演まで来たかとビビったが、それは別の映画の話だった。

そしてじわじわときている。そんなすぐに見直したくないけれど。
でも手鏡に映る彼女のブルブル震える長回し以外に細かいところは正直よく覚えていないし、年代さえ全然頭に入っていない。だが『ザ・マスター』は凄く好きだったはずなのに、なんだかそう言ってはいけない空気に負けて、年の瀬には忘れることにした。そのまま最近のPTAはこのままいってもつまらなくなるのかなと思っていたが。今回は何かを取り戻したというわけでもない気がする。あの走るところはどれもそんな好きになれないままなのに。これはもう逆に、躍動感も疾走感もなくていいんだという(予告では泣かせるボウイも正直映画ではそんなにかなというか、今の節電ムードと合う)、ガス欠した車が斜面を下る時の恐ろしいスピードという力学まんまの映画ということか。そしてウォーターベッドに沈む身体。ウォーターベッドの寝心地の微妙な苦手さそのもの。ガソリンではなく水のブヨブヨした緊張関係。この映画を『浮雲』にたとえてみたい欲もある、最初から最後まで全然別物なんだけれど。または無言電話の耐えがたい時間。ザ・マスターと同じくらいザ・男子共の腰振りを遠目に見るのがしばらく頭から離れない。『アネット』の鼻炎の判事にしたって、『リコリス・ピザ』の日本人描写だって、気にならないわけではないけれど、まあ、この愚かさこそ、ある種の力なんじゃないかという気もする。