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朝から時代劇専門チャンネルにて前田陽一『次郎長青春篇 つっぱり清水港』。吉田喜重「メヒコ 歓ばしき隠喩」の刑務所での演劇活動やコロンブスの手記などを指していう(ルドルフ・ヘスまで含まれるだろう)「劇中劇を生きる人々」という主題を、かつての助監督・前田陽一も引き継いでいると改めて意識させる(殴り込みの訓練がかなりおかしい)。母の託した家族再興への夢が呆気なく挫折し、最終的に次郎長一家という形へ結びつくのがいかにもこの作家らしい展開。中村雅俊佐藤浩市明石家さんまという三人組のチンピラ青春物としてもいいし、終始拗ねた佇まいの石松の島田紳助もかなりいい。中村雅俊らが居候するヤクザの親分を三木のり平が演じ(興味深いことに中村雅俊の妻になるかもしれなかった大谷直子が姐さんとして収まっている)、『喜劇 家族同盟』の関係を彷彿とさせる。一度散り散りになった集団が再び次郎長一家として集う焚き火が泣かせる。柄本明の屈折した悲哀も、田中好子の美しさも、終盤の死屍累々の光景(『喜劇 男の子守歌』といい、かなり飛躍した場面が唐突に終盤に現れることがある)も忘れがたい。

チャン・リュル『柳川』。寝不足により前半何度もウトウトしてしまい、そのたびに何か随分変わったような、たいして何も起きてないような感じに頭がついていかなかったが、だんだん目が覚めてからも同じ調子なのに驚いた。意識を失っていないのに、なぜか寝たり起きたり目を閉じたりしながら見たような調子になる映画があるなら見てみたいと思っていたが、まさに『柳川』こそそんな映画かもしれない。いつもより顔色悪い池松壮亮がこれまでよりもずっと格好良く見えたが、何より役名が中国インディペンデント映画祭主催者の方と同じことにも驚く。舞台は日本のはずがまるで池松壮亮のほうが、この中国だか日本だかはたまた韓国かもわからない空間に迷い込んだかのような、不思議すぎる映画にしか存在しない国籍不明のゾーンができていた。中野良子が言葉の通じない相手と喋るカットもやたらハッピー。兄貴のカタコト日本語も最初は単に無理して喋ってる気がしたのに、いつの間にか無条件に肯定したくなる。そしてニー・ニーが綺麗。やたら歌が頻繁に聞こえるなか偽オノヨーコは何だったのか。ちょっといつまで続くんだかわからないのがストレスかもだが。

続けて『福岡』。この時点で思いっきり『柳川』と同じ人形出したりカラス喧嘩していたから先に見ればよかった。しかし『福岡』も前半ウトウトしたけれど『柳川』みたいな戸惑いはなくついていけたが、これは『福岡』がウロウロ散歩するのがベースに対して『柳川』は時間の流れがさらに謎めいているからか? ホン・サンスが90分以内なのに対し『柳川』は2時間近くあるし、なんとなく3時間以上とかいずれ撮りそうな気がする。ただこの機会に見ておいてよかった。ちゃんと寝ずに、もっと早く見ておいたほうがよかっただろうが。

チャン・リュルばかり見て一日終える気になれずイメフォへ移動してピエール・エテックス破局』『恋する男』。