結局のところモグリなので五所平之助のことさえ避けてきたままだった。
先日の二作に続いて『螢火』を見て、数日前に「勉強」とか書いてしまったのが嫌になった。これまたビシビシ来る。あくまで寺田屋を舞台の中心にして、画面外から繰り返されることになる歌の使い方もいい。ファンになるには遅すぎる、まだまだ見てる本数が少なすぎるが。
大変感動したはずが、その次に見た『欲』は喜劇映画として異常なのか普通なのかただただ判断に困る奇妙さで『螢火』の印象が霞んでいく。ここでも序盤の伴淳三郎三國連太郎渡辺文雄三者が酒を交わす場面(引きの画で外から歌が聞こえてくる)がよかった気がする。伴淳三郎はやはりうるさくなってくるのだが、森繁久弥の印象が薄いのもよかった(それでもうるさいが)。猫を誘拐し勝手に去勢していくという犯行に始まり、伴淳三郎が核開発に対抗して不老不死のために精力漲る男たちの睾丸を片方ずつ摘出していった果てに(どうせ実験は失敗に終わるのだろうと先は読めて、若干わかりやすい騒動を引っ張りすぎにも感じるのだが)、彼の友である千田是也が窓越しに衝撃の(いや展開そのものは読めても、ただ身も蓋もない)事実を明かしてから、伴淳三郎の心ここにない顔まで恐怖は言い過ぎだとしても忘れがたいものがある。睾丸も何もすべて当然オフの出来事ではあるが。

『愛と死の谷間』。同じ椎名麟三『煙突の見える場所』に続き芥川比呂志の良さを改めて知る。演出は淀みないのに話の重点がどこへ向かうか読めない(『五重塔』が近い)上に、まさにノワールな画面の暗さで入り込むまでに時間はかかったが、津島恵子芥川比呂志が言葉を交わしてからがしっくり来て、芥川比呂志が死について語り出したあたりからガッチリ掴まれた。いわゆる笑い屋に乗るのも嫌だが、おかしみも増していき、特に(川島雄三今村昌平あたり見たときに感じる日活らしい)豪華キャストの中でも左卜全の出番は『ジャングルクルーズ』のようといっていいのか悪いのか。にしても『煙突〜』といい本作といい芥川比呂志が真面目な顔して事態をシフトさせていくのだが、「僕は死んだんです」とか、今なら万田邦敏がやりそうとか言っていいのか、やっぱり悪いのか。いずれにせよ終盤の木村功はじめ狂ってしまってからも映画自体は一貫して羽目を外さず距離を狂わさないから素晴らしい。しかしどんな顔をして見たらいいのか謎の映画。

 

オミルバエフ『ある詩人』は五所平之助と同じくらい面白く、先が読めない。前に見た『ある学生』がブレッソンを参照したなら、今作はさらにブニュエルオリヴェイラパウロ・ブランコがタッチしてるわけだが)、イオセリアーニらの時空のねじれと夢(この要素は『ある学生』にもあったはず)、やや旅の要素がエリア・スレイマンのことも思い出したが、五所平之助同様オミルバエフも唯一無二なのだった。
詩人が主役といえば『ビーチバム』もあるが、真逆のようで適当に関連づけたくもなる。序盤と終盤を携帯動画でおそらく撮影した映像があえて挟む。覚めても覚めない夢の中で、ただ目覚めようと抗いながら旅を続けるしかないのか。