『春原さんのうた』見てから梅本健司さんの批評を読み直したが、この映画について書かれた文章のなかで最も素晴らしい。僕の閉じた心では気づけない美点と、その本作の問わない姿勢が現状いかに作用してしまっているか(本作の政治的な側面)を指摘した、まっとうな批評。草野なつかさんの、2時間を2時間そのものとして経験させるという指摘は、確かにと思う。

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国立映画アーカイブにてレイ・サンフォン『寒い夜』。昼食の後すぐに見たせいか肝心の二人の馴れ初めは寝てしまっていたのでわからない体たらくだが、昨年の五所平之助祭りに続くメロドラマの名作に違いない。大日本帝国の侵略行為が背景にある話に素直に泣いていいものかはともかく、老いて頑なな母、冷え切ったパートナーとの関係、自らの肺病に佐分利信に似た主人公の苦悩する話かと思いきや(そうでもあるわけだが)、彼の身体が弱るほどに、こちらも冷たい女だと決めつけて見ていた彼女へ焦点が移り、いつの間にか気持ちを持っていかれる。美しすぎて、添い遂げることは叶わないのだと心を掻き乱す。彼女が二度口にする「友情」という言葉も胸打たれるが、一時的に家を離れざるを得なくなる別れの晩の訪れが実にせつない。彼はカフェにて不在の彼女のための空白を隣に用意するとき、すでに今生では再会できないことを予感していたのだろう(ある意味、そこでは男女の生と死が反転している)。空襲とパレードのどちらにも出てくる(おそらく)ロケセットの路地に映画の豊かさも感じる。

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