■絵と映像 「キャンバスは工場を映す」、黒川幸則<鋳物工場の仕事>(タイトルなし)

「スペースとプラン」にて井上文香展&黒川幸則<鋳物工場の仕事>(タイトルなし)の記録映像を見る。およそ90分? 川口市領家の不二工業での作業の記録。御本人の言葉を借りれば「ストイック」というか、黒川幸則&井上文香たった二人だけの映画であってもフィックスの画の量で意外と硬派というか(スタッフ二名だけといえば堀禎一&内山丈史の『天竜区』の製茶工場という前例はあるわけだが)ただ序盤ほど本当に作業だけなのでやはり見ていて集中力切れかけるが、作業員の休憩が挟まれて、ようやく人の声が聞こえてたり、はにかんでいる顔が見えたあたりから不思議とこちらの気持ちもリセットされ、この映画を楽しもうという姿勢に変わる。そうなってからは土、粉、液、煙、綿といった画を構成する要素が見ていて飽きず、穴ぼこは見ていて楽しく、何より火に色気を感じる。最近の自分が欲求不満なのか、後半の溶かした鉄を流し込む様子というか、燃える液体が穴から噴き出し、流れ落ちる時の音も火花も、何か立小便に近いというとさすがに下品かもしれないが、そのような連想はラス・メイヤーの世界でも繰り広げられていた。あの白くこびりついたものが精液に見えてくるくらい、何らかの事後の余韻に浸るような時間を過ごす。その書き方がやはり気持ち悪いなら、中川信夫『地獄』の釜を見る面白さというか。とにかく火は見ても聞いてもバリエーションが豊かで見ていて飽きない。実は未完成らしく、この後も作業は続くからか、やはり先行きは見えないまま終わってしまう(その点、これまたスタッフ2名だけの鈴木仁篤&ロサーナ・トレスの映画ほどの感動はまだない)。でもこの見えなさも黒川さんの映画かもしれない。

黒川幸則監督のTwitterでの解説。