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恩地日出夫井手俊郎伊豆の踊子』67年の映画は未見。木村拓哉×早勢美里。この原作の映画を見たことがないわけがないのだけれど、初めてこういう話だったんだと知ったような気がする。それは『新宿バス放火事件』の全身火傷の治療同様、リアリスティックな描写の積み重ねというものといっていいのか。限られた時間、決して弛緩した空気ではないのに、追い立てられることなく過ぎていき、その旅は「下田についたら活動を見ましょうね」という約束が三度繰り返されて、急にこれ以上進んではならないものとして男女の仲も旅も止められてしまう。ロングだからか(画質悪いからか)よく顔が見えなくても加賀まりこは声でわかる。加賀まりこの声がいい。柳沢慎吾はすぐにわかる。飄々とした石橋蓮司。終盤の飯島大介らの登場もよかった。でんでんの水戸黄門(この声もいい)、柳沢慎吾国定忠治(向かい側にある一階上の座敷の様子が見える構図もいいし「なに、あんなもの」と言い捨てる柳沢慎吾も忘れられない)、そして木村拓哉が早勢美里へ決して上手くはないけれど水戸黄門の続きを読んで聞かせる。木村拓哉の「やさしさ」とともに高低差が印象付けられる演出の中(その構図が終盤完全に逆転したときに二人の仲がこれ以上は深まってはいけないことも告げられる)、混浴風呂での誰も立ち上がれなさそうな空間・状況にて「よごれ」をめぐる主題が語られる(胸元から上しか見せられない制約がかえって色っぽいのだが、その制約がない中での『伊豆の踊子』を見たくもなる)。

ついでに録画した恩地日出夫『前科三犯 逃亡画家』も見る。『新宿バス放火事件』と異なり2時間を超える長さではないはずなのに、その制約でも時間は石橋蓮司の語りと共に淡々と(しかし意外と楽しく)過ぎていく。しかしここでもおそらく、彼はもう一度生きる、という実感を石橋蓮司は獲得しようとする。今回は名取裕子大滝秀治名古屋章らによって彼は生かされていたのか、それとも間接的に関与した強盗事件によって生かされたのか。

VHSをもっていた恩地日出夫『結婚 佐藤浩市名取裕子編』。亡くなったというので見るのも違うかもしれないが……。鈴木清順ばかり見て申し訳ない。47分と決して長くない作品だが、長谷川初範名取裕子の海での再会と別れが、その前後を省いているかのようにあっさり二人きりになっていることで、かえって時間をかけて過ぎていく。長回しによる長谷川初範の告白に対して、終盤のきつい野次の声が飛び交う中(実際に映画館の最終興行日のオールナイトにあんなことしたら、あれくらい言われるだろう)での佐藤浩市名取裕子の二人のカットバックのみ繰り返して、どうしようもなく熱を帯びてくる。そして子どものロシア語。VHSの画面にあまり集中できず、何度かちゃんと見直さないといけない。