『男の嵐』(監督:中川信夫)

松竹第一主義 松竹映画の100年
 
『男の嵐』クレジット
 
 
国立映画アーカイブにて中川信夫『男の嵐』を見る。入れ替わりや家出息子、仇討の旅など中川信夫らしい要素は当然揃っている。
前半は炭鉱のタコ部屋を舞台に人物が行き来する。「上演の映画」(赤坂太輔)らしい展開。
2,3回漫才師(リーガル天才・秀才)の掛け合いが挟まれるが、前景の彼らが退場して、後景の人物たちのやり取りへ引き継がれるまでカットを割らない。「ピスケン」(山本豊三)はハーモニカを吹く。尺八の音も響く。登場人物によって頻繁に楽器が奏でられ、音が二つの空間を跨いで、一つの時間を続ける。演奏はタコ部屋脱出(まさかの爆破、アラン・ドワンみたいなやつか? それともミニチュア?)後も出てきて、ついには敵役まで歌いだす。本人たちの思惑以上に間抜けに見えて笑えてしまう、確信犯の演出。
タコ部屋での芝居、話者のバストショットを挟む時に、なぜか舞台以上に背景が真っ暗になる。『地獄』を筆頭に誰がどこにいるのか宙づりになる異空間は登場するが、ここまで来ると低予算ゆえの苦肉の策なのだろうとわかる。西山洋市監督のリモート映画にてスクリーンプロセスのように使われているが、『男の嵐』の何もない背景も「リモート映画」、もしくは今後現れるかもしれないさらなる制約による低予算映画へと続く歴史を感じる。低予算の制約による思わぬ効果は時代を超える。温泉宿の中川信夫らしい樹々と水辺を背景にした美しいシーンもまた低予算映画の武器として、西山洋市『FUE』に登場する。