『WATER MARK』(中川ゆかり)@海に浮かぶ映画館

船に乗せられた人々についての舞台。客席と舞台を共有する揺れと寒さについて、「寒くないですか」と聞き続ける。「寒くないですか」という言葉が視点を切り替え、役者が羽織ることになる衣裳が床に、まるですでに脱ぎ捨てられていたかのように落ちていることに気づかせ、誰かがいたという痕跡を印象付ける。誰か。からゆきさんたちだ。これは、からゆきさんについての芝居だ。客席と舞台との視線の行き来は、衣裳からの眼差しに切り替わり、衣裳を身にまとう女性は視線を引き受ける。『LOCO DD』大工原正樹編のFantaRhyme、『南瓜とマヨネーズ』の臼田あさ美、『夏の娘たち』、『エル』。それら別々の異なるアプローチの映画たちを同時に思い出す。

役者が客席に向けて語るように、舞台はストーブによって会場が暖まる頃には終わるという。だがストーブをつける前後、役者は船という場所で水の上を漂う感覚を共有するために「眼を閉じる」よう呼びかけていた。あの間に、もしかするとストーブの火は消されていて、『日本春歌考』(大島渚)のように、一酸化炭素が会場を満ちていくまでの時間と化していたかもしれない。会場を満ちていくのは冷気と揺れ、震えだった。震えが集中力を研ぎ澄ます。しかし頼りなく怠惰な自分はまだからゆきさんたちについて語るために学ぼうとしていない、彼女の朝鮮訛りの言葉を記憶できない。確信犯的に、運動する役者と客席との間に温度差ができる。役者が「あたたまってきた」という時に、客席はまだその地点に立てていない自らを問われているのかもしれないが、挑発的なものとして捉え過ぎかもしれない。あくまで自らのいる地点を各々が捉え直すものとしての舞台かもしれない。

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