夜勤明けに『旅役者』(成瀬巳喜男)、ほとんど寝てしまい、会話は全て頭に入らなかったが最後に唖然とする。悔しい。

 

『裸女と拳銃』(鈴木清順【清太郎】)、初見。二作目の『海の純情』を見て、『悲愁物語』『カポネ 大いに泣く』『結婚』あたりの出鱈目さが既に展開されていて唖然とした覚えがある。その後の『悪魔の街』『浮草の宿』も見て、どちらも面白かったけれど、次の『8時間の恐怖』と『裸女と拳銃』は更に突出している気がする(たんに集中できただけかもしれないが)。まず予想以上に白木マリの下着姿が裸より変だ。たんに時代的な制約だとしても、シルエットやシャワーシーンは周囲の「裸」に対する反応も含めて、おかしさの記録として際立っている。かつて『殺しの烙印』の股間を白い矢印が追いかけまわしていたという話を思い出す。彼女をめぐる分身の設定が、終盤の人形によって一人の女の光と影という点が強調されるけれど、そもそも彼女自身が人形のようだ。涙を流して歩く姿での感情のなさは尋常じゃない。和服姿で彷徨うと、後の『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』を先取りしているようにも思う。水島道太郎もバカに見える。車椅子の死体が恐ろしいけれど、それを見て斧を持ったまま右往左往する姿が必要以上に間が抜けている。サンマのくだりを見て、目先のことにすぐ意識が奪われてしまう設定だとしても驚かされる。宍戸錠は顔のアップが急に入って美味しい。おかしなところは当然いくつもあるけれど、とにかく白木マリのシルエットを活かす影と階段の組まれたセットが素晴らしかった。クライマックスの対角線で繰り広げられる船内の銃撃戦も凄まじく、不意に画面から敵役の菅井一郎が消えて、そのまま恐怖心を煽る銃声が響き続け、戦場と言いたくなる光景が続く。白木マリと水面の重なり合う最後が忘れがたい。下着姿から映画に反映された現実のくだらなさが、終盤の銃撃戦から映画に反映された現実の地獄が刻まれているのかもしれない。

 

サロメの娘 アナザサイド in progress』(七里圭)、七里監督の映画のなかでは久々に親しみやすくて、特に「ワンダーフォーゲル」がやたらにおかしくて笑ってしまった。長宗我部陽子の母が、そのおかしさとマッチしていて心地よかった。少女との切り返しは特に見ていてスリリングだった。ただ久々に(ダンサー以外の)人物のはっきり登場した映画で、彼女たちがどのような声、物音とともにあったのか、同時録音も聞いてみたかった気がする。それにしても見ている間はいろいろ興奮して書いておきたいこともあったのに、うまく頭が回らなくて文章にできない。