鈴木卓爾『All night』『ゾンからのメッセージ』

映画美学校映画祭2014上映作品 | 映画美学校

 

鈴木卓爾『All night』『ゾンからのメッセージ』どちらも面白かった。かたや上映会場とほぼ同じキノハウス(渋谷)での二日間の撮影での戸惑い、かたやおそらくそれ以上には長い時間を深谷での合宿で過ごしたひたむきさ、その対称的な舞台挨拶がどちらの作品の魅力も伝えていると思う。
鈴木卓爾監督の作品では常に奇妙な音に包まれた空間、集まりへと入っていくことが多いけれど、『All night』では上映中の映画がその音であり、映画館がその舞台になる。『ポッポ―町』ほどではないものの、やはりここでも人々がすれ違い、さまよっている。「映画館からカメラは一歩も出ない」のが本作のテーマでフレームにもなっているけれど、同時にこの映画館にはいくつもの空間があり、いくつもの入口(フレーム)がある。ネタバレになるが私たち観客もこのフレームを前にしている。カフェテオの入口、映画館の入口、受付のスペース、映写室、そして上映される空間と、スクリーン。だがこれ以上に圧倒的な数の入口がチラシとポスターだ。登場人物たちはこのいくつもの入口を行き来することになる。
『ゾン』は一度見た限り...では言い尽くせない魅力があるが、ここでも「ゾン」という空間(もちろん『ストーカー』のゾーンなわけだが)への入口が重要になる。鈴木卓爾監督の作品がフレームの内外を出入りする人物の動きで見せる能力は「ワンピース」シリーズで発揮されるが、本作でも『All night』でもそうだが、同時に画面内にも組み込まれたフレームがあって、その奥へ奥へと進んでいこうとすることが、登場人物たちの変化においても重要なキーになり、同時にその深さがタルコフスキーやリンチなど、観念的、抽象的かつ、おそらく解決する気のない謎を設定したりしかねないリスクと闘いながら、かれらは時に一歩を踏み出せずさまよい、時にその映画から姿を消してしまいながらも、おそらくその映画内のフレームから覗いている視線からの切り返しを待っている。それにしても『ゾン』の「海」という言葉が聞こえてきてからは、正直終わってほしくないほどすべての瞬間が愛おしい。