2019年ベスト

『アド・アストラ』(ジェームズ・グレイ
『ダンボ』(ティム・バートン
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(クエンティン・タランティーノ
『運び屋』(クリント・イーストウッド
『さらば愛しきアウトロー』(デヴィッド・ロウリー)
『ある女優の不在』(ジャファール・パナヒ)
ポルトガルの女』(リタ・アゼヴェド・ゴメス)
『イメージの本』(ジャン=リュック・ゴダール
『8月のエバ』(ホナス・トルエバ
『ドール・メーカー』(トム・ホランド

 

次点『ミラリ』(ジョー・ダンテ)※『マスターズ・オブ・ホラー』の一編
『カツベン!』(周防正行

 

演劇『しがさん、無事?』(青山真治

 

『ミラリ』。オムニバスのどれも半端に過剰にはしゃいでいる愚策凡作の中で、唯一落ち着いた演出で見るに値する映画をジョー・ダンテが作る。あまりにも先の読める話で退屈かもしれないが、それでもリチャード・チェンバレンに今更マッドサイエンティストを演じさせるという発想も、ヘンテコな夢のシーンで首を傾けてニコニコ笑いながら手を振らされているのも(もはや「悪夢」と呼んでいいのかもわからない)ジョー・ダンテの映画でしか見られない光景か。夜中にヒロインの悪夢の続きか現実か曖昧なまま廊下に出るとカメラが傾く。『マチネー』の避難訓練や、母親がフィルムを映写しているシーンを思い出すが、その傾きで映像に複数の意味を持たせるのがジョー・ダンテの魅力なのか。

『カツベン!』。接吻シーンと、それからのあれこれに深く感動。周防正行監督の映画は物凄くエロティックな逸脱をしそうになる時が一番いい。

ポルトガルの女』。ジョン・フォードの映画に出てくる居留地を思い出す舞台、ほぼフィックスのワンショットで撮られた空間を人物たちがそれぞれ予期せぬ方へ行き来し、人間たちに比べてどれほど演出されたのか謎めいた動物たちが移動する。戦地の夫を待つ妻の日々はまるで時間の停まった世界のようで、どこへ向かおうとしているかわからない停滞感が凄まじい。妻はETに見える猫の像を作っているかと思えば、予想外の切り返しでもって復活した夫は狼を殺す。動物不在のショットで語られる「時間」についてのやり取りにおいて、戦争と男女の時間に対する感覚の相違が語られる(と思う、うろ覚え)。クライマックスは男女がベッドインしカーテンの閉じられるまでに至るという、わずかなドキドキへ行きつくのがいい。

『8月のエバ』。ロメールの諸作のように日付が記される。しかし夜中のシーンで日付が映され不意を衝かれる。単に夜中に日付を跨いだだけかもしれないが、ホン・サンスの反復する夢のようではなくても、時間感覚を乱してくる。窓の外から音や光が入り込み、様々な人物の話も入り込んできて、それをもしもすべて映したら2倍の260分くらいに平気で伸びていたかもしれない。しかし『8月のエバ』はダラダラ過ぎていく時間としてではなく、密室におけるヒロインの肉体に光を反射させる。130分と決して短くないが、それぞれの場面が光と音の極めて密度の高い結晶と化している。

『ドール・メーカー』。『サイコ2』の脚本家によるリメイクのようだが、常にどちらとも解釈できる曖昧さが一時間ほど溜まった結果、ついに弾け飛んでからのヘンテコな展開の連続。ラストショットの悲鳴とナイフが忘れられない。