石原海『忘却の先駆者』。オリンピックの感動を全国民が忘れないために、記憶を絶対に失わなくなるクスリの服用が義務付けられる。アルツハイマーの母は政府の機関によって拉致・拘禁され、強制的にクスリを服用され続ける。
相変わらず、かつてのアップリンク配給作品(イアン・ケルコフとか)を思い出すテイスト。中川えりなの衣裳が凄い。
母親が過去を語らされる長回しでは、彼女の言葉はそれまでの芝居臭さと生々しさの境界を行き来しながら、SF的設定からはみ出してカメラインタビューの暴力性を引き出そうと狙う。続く娘のナレーションは、これまでの石原海作品と繋がって、母娘の関係、印象と忘却を行き来する移り気な内面が言語化される。
母を捜索するうちに自らも捕らえられてしまうラストは、やはり「愛」を語りながらも『アルファヴィル』というより『未来世紀ブラジル』の最後を、皮肉なオチとしてでなく解釈してみせたように聞こえる。

 

vimeo.com