『やす焦がし』(大工原正樹)

https://aoyama-theater.jp/pg/3465

大工原正樹監督『やす焦がし』、またしても女二人男二人の映画だった。女二人の踊りもある。そして勘違い男が情緒不安定な女と出会って恋に落ちる映画だと思って見ていると(実際そんな話でもあるが)、それぞれに異なるパートナーが登場して(既に存在していて)、明らかに結ばれるわけのない男女の恋愛を結ばれないままハッピーエンドに見せてしまう。母の死のショックから「きつね憑き」になったという女に向けて男は「真っ直ぐに俺を見るんだ!」と目を覚まさせようとする。その一声によって彼と彼女の関係そのものは感動的に結ばれるどころか、逆に別の男女を呼び寄せて明らかに別れさせる。しかし話がこじれてわけがわからなくなってくるほど、むしろ役者たちは真っ直ぐにこちらを見つめてくる。『ジョギング渡り鳥』撮影・音響コンビが『ファンタスティック・ライムズ!』に続き、役者たちと見つめ合っているよう距離を縮めてくれる
彼女はもう一人の男を最初から選んでいて、あなたは勘違いしているご近所さんなんだと言う。それならどうしてご近所さんが別の女に連れられて消えてしまってから、耳が聞こえなくなるほどのショックを受けたのか(本当に聞こえなかったのか)。旦那になる男が彼女を気遣ってみせる微妙な身振り手振りは滑稽だけれど愛しく、彼にそんなことをさせながら何もかも聞こえてるようにしか見えない彼女には感動する。きつねによって、男たちは旦那とご近所さんの役割を入れ替えてしまったのかもしれない。しかし関係のねじれが映画にとって混乱を招くのではなく、あくまで「結ばれない」ということが互いの何かを瞬間的で、邪かもしれないが一時だけでも疑いようのないものにさせるから素晴らしい。