アドルフォ・アリエッタ『Flammes』@MUBI。

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幼い頃の悪夢を何故だか見直したくなる気分に最も近い映画。

と、まるで自分の経験とつながっているかのように安易に形容していいかわからないけれど、作品に触れることで(良くも悪くも)自分の失われてしまった(そもそもあったかもわからない)感受性(?)を取り戻していく感覚(錯覚)を知った気になることがある。

映される闇は深く、人物は時に鮮明に浮き上がり、時に闇の中に溶け込んでいて、そのどちらもが現実で見たことあるようで、こうして映画となって見るのは滅多にない妖しさ。最初は悪夢にとりつかれた幻想の映画になるのかと思ったら、最終的には映画自体夢であったかのように終わる。画面そのものの魅力はそのままに、妙に可愛らしく喜劇じみたり、情熱的な愛の映画に思えたり、終盤の階段を降りてくる彼女の佇まいに痺れたり、印象は変わっていく。

消防士という職業が、これほど映画と相性が良いと思ったことはなかった、と、これまた安易に知った気になっていいのかわからないけれど、ジャック・ドゥミの『ローラ』の水兵と同じく、消防士と夜という組み合わせが「映画」としか言えないものだった。

そして消防士が対峙するはずの「火」が、これまた素晴らしかった。その「火」のない場所で嘘の通報をする彼女が待つ時間のおかしさ。サイレンの響きが見る人の感情を否応なく高めるはず。その「火」と無縁ではない物質によって映画は締めくくられるが、スコリモフスキ『出発』やヘルマン『断絶』の燃え上がるフィルムとは別種の、映画がとても不思議な物質となって目の前から消え去っていくような結末に驚く。