中島貞夫『安藤組外伝 人斬り舎弟』、予想の斜め上をいく不思議な映画。終盤まで目立ったキャストの死が画面ではっきりと示されない。梅宮辰夫とその子分からいくら滅多打ちにされても(子分が梅宮辰夫に「それ以上やったら死んでしまいますよ!」と止めるほどやられても)死なない菅原文太とは異なり、冒頭の彼以上に叩きのめされる安岡力也、片腕になる渡瀬恒彦は生還しない。そのどちらも後に台詞によって死が語られる。安岡力也はほとんど致命傷を負わされているようにしか見えないが、息絶えるところまでは映されない。安藤昇たちから延々と暴行され命乞いする名和宏は、その後の生死は小松方正の台詞から判断するしかない。梅宮が菅原に鉄砲玉を送ることを決めるシーン以降、まるで怪談映画のような青白い照明が両者に当てられる。ここで腹を撃たれても死なない菅原は、いよいよ化けて出てきたようで、彼に対する梅宮、前田吟らの態度は生きている人間への反応とは思えない。決着が宙づりになって終わる「殺し合い」は作中最も不穏な空気を漂わせつつ、どこかユーモアもある。横井英樹襲撃事件後は登場人物全員があの世から手招きされているようだ。菅原文太が刺された後、安藤昇にさえその光の当たったショットを見ていると、なぜだか窓から彼がやってくるような気がしてならない。しかしそこへ届くのは、これまでと違って痛めつけられる描写のない作中最後の死の報せだ。スクリーンに映されたその亡骸を前に、安藤昇初井言榮の放つ一言によって、あの世への誘惑を断ち切るように映画は終わる。その幕切れの呆気なさ。
出所の決まった菅原文太と梅宮辰夫のやり取りは(もしかするとペキンパー的な)友情を感じさせ、青白い光から一足先に解放された梅宮の目が胸をうつ。そして女の元に帰った菅原文太を待つ子どもの、何の感情もこちらに与えない、ただそこにいるだけの奇妙さは『鉄砲玉の美学』のウサギを見てるようだった。